■私の仕事柄、英語学習から疎遠になっている大人達に、「LLで英会話を学びませんか?」とよく勧めます。大抵、「いやぁ、This is a pen. 程度でして」と謙虚に辞退なさいます。数年前、スイス、ツェルマット村からの代表団を迎えた折、セレモニー挨拶と夕食会で通訳をさせて頂きました。食事はリラックスするためのものなのに、緊張が続き、飲食ばかり多いのが日本人でした。私だけが会話を楽しんでいましたので、「中学レベルの単語でOK。何か直接聞いてみて下さい」と勧めました。ここで英語を使わねば男がすたるとばかりに、覚悟したA氏は、"Do you have snow?"と、村長夫人に!…お互いに雪で有名な観光地ですから返答にお困りで、暫し沈黙。私はとっさに、"He's asking, how much snow?"と降雪量に切り替えました。
■雪国観光業の専門家のA氏は、共通の話題、『雪について何か聞かなければ』と、緊張の極みの中で「雪が降りますか?」となってしまったのでしょう。小学5,6年での目標の根本が、「コミュニケーション能力の素地づくり」にあるのは、このような例が多いからなのでしょう。A氏が先ず発した方が良いと思われる質問は、「昨日は良く眠れましたか?」、「ホテルの居心地は?」、「テレビをご覧になりましたか?サムライが出てきましたか?」…等だと話が膨らむでしょうね。
■注目すべきは、コミュニケーションの内容の多くが「過去形」だということです。目の前のペンを指差して、"Is this a pen?"と聞かれて、"Yes, it is." と答えることはまずありません。「見れば、ペンだとわかるじゃないか!」とびっくりすることでしょう。まして、"Are you a girl?" と聞かれたら…(笑)。確かに、「自己紹介」や、「電話の応対」、「道案内」等では、「現在形」が大活躍しますが、コミュニケーションの醍醐味は、「相手を深く知りあい、意気投合する」ことにあります。現在の中学英語では、過去形は中2で学びます。「…へ行ったことがありますか?」、「…の本を読んだことがありますか?」という現在完了形は中3です。
■論理的思考になっている中学生に対しては、文法構造の難易度を基準に指導する方が教えやすいので、今は止むを得ません。しかし、小5は中1に比べれば、まだまだ理屈抜きの「感覚的学習」、つまり、その子の現実に即した学習内容に感情移入しやすいのです。これを利用しない手はありません。どの国の子供もその言語を文法から学ぶことはないのですから。文科省はいずれ、小中を連動させた指導要領に変更するでしょう。次回は、私が提案する学習内容と教授法の一端をご紹介させて頂きます。